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仙台地方裁判所 昭和23年(行)76号・昭25年(ワ)117号 判決

(行)第二三号原告 三浦正男

被告 宮城県農地委員会

(ワ)第一一七号原告 田代広

一、主  文

昭和二十三年(行)第七六号事件について

被告宮城縣農地委員会が昭和二十三年十一月十一日原告三浦正男の訴願に対してなした裁決はこれを取消す。

訴外金田村農地委員会が昭和二十三年九月十八日栗原郡金田村字川口上谷地五十三番田三反二畝二歩について定めた買收計画はこれを取消す。

昭和二十五年(ワ)第一一七号事件について

原告田代廣の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は昭和二十三年(行)第七六号事件について生じた分は同事件被告宮城縣農地委員会の負担とし、昭和二十五年(ワ)第一一七号事件について生じた分は同事件原告田代廣の負担とし、又両事件について共通に生じた分は昭和二十三年(行)第七六号事件被告宮城縣農地委員会及び昭和二十五年(ワ)第一一七号事件原告田代廣の平等の負担とする。

二、事  実

第一、昭和二十三年(行)第七六号事件

原告三浦正男(昭和二十五年(ワ)第一一七号事件被告、以下單に原告という。)訴訟代理人は主文第一、二項と同旨竝びに訴訟費用は被告宮城縣農地委員会(以下單に被告という。)の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

(一)訴外金田村農地委員会は昭和二十五年(ワ)第一一七号事件原告田代廣(以下單に田代廣という。)の請求により昭和二十三年九月十七日主文第二項記載の田地について、右は昭和二十年十一月二十三日当時田代廣の小作地であるという理由で買收計画を定め、翌十八日これを公告したので、原告は九月二十五日異議の申立をしたが十月四日却下の決定を受けた。そこで更に十月九日被告に訴願したところ、十一月十一日棄却の裁決を受け、その裁決書は十一月二十七日送達された。しかしながら、

(二)本件田地は原告において大正十二年頃から田代廣に賃貸してきたが昭和二十年十月中旬右田代廣と合意の上右賃貸借を解約し、その頃その返還を受けたものである。從つて本件田地は昭和二十年十一月二十三日当時既に小作地ではなかつた。

(三)仮にそうでないとしても、本件買收計画公告当時原告所有農地は本件田地を含め自・小作合せて二町四反七畝二十五歩である。從つて金田村における自作農創設特別措置法(以下單に自創法という。)第三條第一項第三号の保有面積二町六反歩の範囲内であるから、本件田地を買收することはできない。

(四)仮にそうでないとしても、田代廣は本件田地を原告に返還するや、これを理由として原告から借受け、訴外三浦午市に轉貸していた田九畝二十一歩を取上げた(そのため原告は右午市に一反二畝歩の田地を賃貸した。)外更に同じ理由で訴外千葉勇雄外一名に賃貸中の田地合計一反五畝歩を取上げている。從つて田代廣は殆んど從前の面積に近い農地を耕作するようになつたから更に本件田地について遡及買收を請求することは信義に反する。

(五)のみならず、本件田地を買收されるときは原告の自作地は九反六畝三歩(原告所有の小作地は一町一反九畝二十歩である。)にすぎなくなるに反し、田代廣は前記のように殆んど從前通りの耕作面積を維持しているから、田代廣に較べて原告の生活状態は著しく惡化する。

いずれにしても田代廣の請求を容れて訴外金田村農地委員会が本件田地について買收計画を定めたことは違法であり、從つて右買收計画を維持して原告の訴願を棄却した被告の裁決もまた違法である。よつて右買收計画竝びに右裁決の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べ、

被告主張事実のうち、昭和二十年十一月二十三日当時の原告所有農地が被告主張の通りであることはこれを認めると答えた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告主張の事実のうち、

(一)記載の事実はこれを認める。

(二)記載の事実のうち、田代廣が原告主張の頃原告から本件田地を借受けたことは認めるがその他の事実は否認する。原告から本件田地の返還方の申入があつたのは昭和二十年十二月下旬で、しかも田代廣がこれに應じて本件田地の賃貸借を合意解約したのは本件田地のうち苗代予定地三畝歩を除いたその他の部分にすぎない。

仮に原告主張の頃本件田地の解約に應じたとしても、田代廣は昭和二十年十一月から十二月にかけて本件田地の稻刈、稻掛、取込み等を行い、翌二十一年春これを原告に返還したのであるから、昭和二十年十一月二十三日当時はまだ小作地であつた。

(三)記載の事実はこれを認めるが、原告は昭和二十年十一月二十三日当時自・小作合せて約二十五町歩を所有しており、その当時は右保有面積を越えている。しかして遡及買收は遡及時の事実に基ずくのであるから、現在は保有面積の範囲内であつても、本件田地の買收は許される。

(四)記載の事実は否認する。田代廣の請求には何等信義に反するところがない。

(五)記載の事実のうち、原告所有の小作地竝びに本件田地を買收された場合の原告の自作地がいずれも原告主張の通りであることは認めるが、その他の事実は否認する。原告はもと仙北屈指の大地主であつたし、また酒造業を営んでいるから僅かに鍛治屋を副業としている田代廣よりも、その生活状態は遙かに裕福である。

以上の通りであるから田代廣の請求を容れ、訴外金田村農地委員会が本件田地について買收計画を定めたことは何等違法でない。從つてまた右買收計画を維持して原告の訴願を棄却した被告の裁決にも何等違法の点がないから前記買收計画竝びに裁決の取消を求める原告の本訴請求は失当であると述べた。

第二、昭和二十五年(ワ)第一一七号事件

原告田代廣(以下單に原告という。)訴訟代理人は被告三浦正男(昭和二十三年(行)第七六号事件原告、以下單に被告という。)は原告に対し主文第二項記載の田地を引渡すべし、訴訟費用は被告の負担とするとの判決竝びに担保を條件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として本件田地について前記昭和二十三年(行)第七六号事件の請求原因(一)に記載したような経過ののち、昭和二十三年十二月二日を買收期日とする買收令書が昭和二十四年四月二十八日被告に交付され、ついで原告は昭和二十五年一月二十日その賣渡通知書(賣渡期日は昭和二十四年十二月二日である。)の交付を受けたから、被告に対しその引渡を求めるため本訴請求に及んだ次第であると述べ、被告の主張に対する答弁として昭和二十三年(行)第七六号事件における被告宮城縣農地委員会の主張事実を援用した。

被告訴訟代理人は主文第三項と同旨の判決を求め、原告主張の事実のうち、本件田地について原告主張のような経過ののち、その主張の日その主張のような買收令書は被告に交付されたことは認めるが、その他の事実は知らぬと答え、昭和二十三年(行)第七六号事件における原告三浦正男の主張事実を援用し、本件田地の買收処分は結局効力を生ずるに由なく、從つてまた本件田地の所有権は国に移轉しなかつたことになるから、たとえ原告主張のような賣渡通知書の交付があるとしても、原告はそれによつて本件田地の所有権を取得するいわれがないから、被告に対しその引渡を求める原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

第一、昭和二十三年(行)第七六号事件

訴外金田村農地委員会が昭和二十五年(ワ)第一一七号事件原告田代廣(以下單に田代廣という。)の請求により昭和二十三年九月十七日本件田地について、右は昭和二十年十一月二十三日当時田代廣の小作地であるという理由で買收計画を定め、翌十八日これを公告したこと、原告三浦正男(昭和二十五年(ワ)第一一七号事件被告、以下單に原告という。)がその主張の日これに対し異議の申立竝びに訴願をしたが、右はいずれもその主張の日却下の決定竝びに棄却の裁決を受け、右裁決書は原告主張の日原告に送達されたこと、及び原告が大正十二年頃本件田地を田代廣に賃貸したことは当事者間に爭がなく、証人三浦午市、三浦さこんの各証言竝びに原告本人訊問の結果を綜合すれば、原告が昭和二十年十月中旬頃その妻さこんを代理人として田代廣に対し本件田地賃貸借の解約を申入れたところ、田代廣においてこれに應じ稻刈後は改めて田地の引渡をなすことなく、直ちに原告においてその使用を開始できることゝ約定したことが認められる。右認定に反する証人田代さよの証言は信用し難い。しかして右約定の趣旨は特段の事情のない限り本件田地はその年の稻刈が完了した時に、改めてその引渡をなすことなく、当然賃借人の手を離れ賃貸人の占有に移るものとするということであつたと解すべきであるから、右賃貸借は稻刈完了の時に終了すると解するのが相当である。

しかして証人三浦午市の証言によれば本件田地の所在する宮城縣仙北地方においては稻の刈入れは十月十日から同月末頃迄に初まり、遅いときでも十一月五日には終るのであつて、稻乾しでも一般には遅くとも十一月中旬中にはその年の收獲(稻の取込み等を含めて)を完了し、まれには同月二十日を過ぎるというのであるから、同証人は昭和二十年は一般におくれたとはいつているけれども特別事情の認められない本件田地においては遅くも同年十一月二十三日以前にはその收獲を完了したものと認めるべきである。右認定に反する証人田代さよの証言は信用しない。從つて本件田地の賃貸借は遅くも昭和二十年十一月中旬中に終了したものというべきである。

從つて本件田地を遡及買收することはできないから、本件田地について定められた前記買收計画は他の点について判断するまでもなく、既にこの点において違法であり、從つて右計画を維持して原告の訴願を棄却した被告の前記裁決もまた違法である。よつて前記買收計画竝びに右裁決の取消を求める原告の請求には理由があるからこれを認容すべきである。

第二、昭和二十五年(ワ)第一一七号事件

原告田代廣(以下單に原告という。)は「本件田地について前記昭和二十三年(行)第七六号事件の請求原因(一)に記載したような経過ののち、昭和二十三年十二月二日を買收期日とする買收令書が昭和二十四年四月二十八日被告三浦正男(以下單に被告という。)に交付され、ついで原告は昭和二十五年一月二十日、賣渡の期日を昭和二十四年十二月二日とする賣渡通知書の交付を受けたから被告に対し本件田地の引渡を求める。」というのであるが、本件田地について定められた買收計画が違法であつて取消を免れないことは前記昭和二十三年(行)第七六号事件において説示した通りであるから、たとえ原告主張の事実が肯認されるとしても原告において本件田地の所有権を取得するいわれがない。

從つて他の点について判断するまでもなく、被告に対し本件田地の引渡を求める原告の本訴請求には理由のないこと明らかであるから、これを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九條、第九十三條を適用して主文の通り判決する次第である。

(裁判官 松尾巖 伊藤正彦 片桐英才)

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